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ピラネージ版画展の記憶
倉澤智
建築家・倉澤智建築事務所代表 |
母親が鎌倉生まれということもあり、私は幼少の頃から、祖父母の住む鎌倉によく訪れていました。物心がつく頃になると、鎌倉に行くということは東京生まれの私にとって「南下する」という心地よい感覚を満たしてくれる特別な場所に変化してきたように思います。そんなある日、高校2年になったばかりだった私は、ひとりでピラネージ版画展を観に近美に出かけました。私はこの時の近美の記憶を未だに忘れることができません。近美の入り口の扉を開けた途端にピラネージ(18世紀イタリアの建築家、版画家、考古学者)の作品群が眼差しの中に飛び込んできました。と同時に、その奥行きや陰影をもつ作品群は近美と共鳴、共振し、新館に至るまで圧倒的な力を醸し出していました。近美と一体となったピラネージの版画の力から感じられたことは、美術館とはいわば「不完全な建築」であり、作品群によって完結する宿命をもつということ。そうした意味で美術館に必要なのはその場所性と美術館自身の包容力です。近美はそうした条件を併せ持つ日本で数少ない美術館のひとつである、と私は確信しています。
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